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ゲシュタルト療法におけるスーパービジョンとは?ー"Gestalt Review"最新号から


心理療法において、質の高いケア・セラピーを提供するためには、スーパービジョンが不可欠です。


スーパービジョンとは、経験豊富なセラピスト(スーパーバイザー)が、より経験の浅いセラピスト(スーパーバイジー)に対して、臨床実践に関する指導や助言を行うプロセスのことです。


日本の大学や大学院で公認心理師や臨床心理士を養成する際、一般的には次のようなカリキュラムが組まれています。


  1. 理論の学習(基礎心理学や臨床心理学、心理アセスメント、精神医学、法律や制度など)

  2. 体験学習(ワークショップや現場での実習など)

  3. 臨床実践(実際にクライエントと会い、カウンセリングを行う)

  4. ケースカンファレンス(グループでの事例検討会)

  5. スーパービジョン(スーパーバイザーとスーパーバイジーがケースについて検討する)


セラピスト・ファシリテーターのトレーニングの5本の柱のうちの1つが、スーパービジョンと言うことができるでしょう(加えて、学派によっては教育分析が求められるところもあります)。人間性中心アプローチの1つであるゲシュタルト療法においても、セラピスト・ファシリテーターの成長に、スーパービジョンは重要な役割を担っています。


スーパービジョンの役割


心理療法の世界では、セラピスト(心の専門家)が責任を持って、より良いケアを続けていくために、「スーパービジョン」がとても大切です。これは、セラピストが常に成長し続けるためのサポートのようなものです。スーパービジョンには、主に次のような大切な役割があります。


  • 治療をより良くする側面: 指導者であるスーパーバイザーが、指導を受けるセラピスト(スーパーバイジー)がクライアント(相談者)に対して、もっと効果的なサポートができるようにアドバイスをすることです。

  • 学びを深める側面: スーパーバイジーの知識や技術、専門家としての能力を高め、成長を促す役割があります。専門家としての技能向上を支援します。

  • セラピストのサポートとしての側面: セラピストの仕事は、時に大きなストレスや困難を伴います。スーパービジョンは、そんな時にスーパーバイジーが精神的なサポートを受けたり、仕事に疲れてしまう「バーンアウト」を防いだりする助けになります。

  • 倫理を守る側面: クライアントの安全と幸せを第一に考え、専門家としてのルールや法律をきちんと守ることを確実にする役割があります。


このように、スーパービジョンは、セラピストが安心して、そして効果的に仕事を進めていくための土台となる、欠かせない仕組みなのです。


Gestalt Review「スーパービジョン」特集


『Gestalt Review』の最新号(VOL. 29 | NOS. 1-2 | 2025)では、「SPECIAL ISSUE: APPROACHES TO GESTALT SUPERVISION」というテーマで、スーパービジョンの特集が組まれています。この特集号には、ゲシュタルト療法のスーパービジョンの多岐にわたる側面を探求する、興味深い論文が多数掲載されています。これらの論文を読むことで、ゲシュタルト療法におけるスーパービジョンの重要性と、その奥深さを知ることができます。


スーパービジョンは、セラピストが専門家として成長し続けるために不可欠なプロセスです。ゲシュタルト療法においては、特に「いま、ここ」での体験と気づきを重視し、セラピスト自身の成長とクライアントへの質の高いケアの両方を実現するための重要な要素となっています。


今号の『Gestalt Review』スーパービジョン特集号には、ゲシュタルト療法のスーパービジョンの多岐にわたる側面を探求する、興味深い論文が多数掲載されています。例えば、次のような論文を読むことができます。


「ゲシュタルト実践におけるスーパービジョンに関する序文」

  • 著者:Joseph Melnick

  • この論文は、ゲシュタルト実践における個人およびグループスーパービジョンに焦点を当てた特集号の序文です。著者自身のスーパービジョンの経験から、良いスーパービジョンが、セラピストの自己内省能力や好奇心、パターンに気づく力、そして「いま、ここ」での体験としっかり向き合う能力に深く影響を与えることを強調しています。スーパービジョンが、単なる知識の伝達だけでなく、セラピストの中に学びが「根付く」ことの重要性を問いかけています。


「ゲシュタルトスーパービジョンにおけるパラレルプロセス、場の力、そして役割反転」

  • 著者:Nancy Amendt-Lyon

  • この論文では、ゲシュタルト療法のスーパービジョンの実践に焦点を当てています。著者が長年の臨床経験の中で、個人、グループ、チームに対するスーパービジョンにおいて、「パラレルプロセス」(クライアントとセラピストの関係性がスーパーバイジーとスーパーバイザーの関係性にも反映される現象)や「リバースドロール」(役割を逆転させて体験する技法)の概念をどのように取り入れてきたかを探っています。また、セラピストやスーパーバイザーが自身のスタイルを確立し、新しいアプローチを試すことの重要性についても論じられています。


「ソマティック・スーパービジョン:生きた身体のアプローチ」

  • 著者:Ruella Frank

  • この論文は、スーパービジョンにおける「身体性」へのアプローチを探求しています。スーパーバイジーは、セラピーセッション中やスーパービジョンセッション中に、自分自身とクライアントの継続的な身振りや姿勢、それに伴う身体感覚に気づくよう促されます。これにより、話しの内容だけでなく、その根底にあるプロセスを身体的な視点から理解し、診断する例が、個別のスーパービジョンとグループスーパービジョンの事例を交えて紹介されています。


「私がスーパービジョンで学んだこと:非伝統的な参加者の視点からの考察」

  • 著者:Laurie Fitzpatrick

  • この論文は、コーチングスーパービジョングループに数年間参加した経験について考察しています。グループの構成やプロセス、参加者が取り組んだ個人的・専門的な課題、そしてグループリーダーがグループ内の安全性と学びをサポートする役割について説明されています。コーチング、スーパービジョン、そしてゲシュタルト療法について、著者自身の気づきや学びが語られており、グループスーパービジョンに参加することの利点と限界、複雑な人間関係の管理の課題が探求されています。


「ゲシュタルト療法における臨床スーパービジョン:プロセスの公式化に向けた方法論的提案」

  • 著者:Diego G. Brandolín

  • この論文は、ゲシュタルト臨床スーパービジョンのグループプロセスを進めるための方法論的な提案を提示しています。長年のスーパーバイザーとしての経験に基づき、公共医療機関や個人開業医など、さまざまな患者と向き合うセラピストたちを指導してきた知見が盛り込まれています。作業の段階に分けられた形式的なプロセスが記述され、スーパービジョンでよく現れるテーマが体系的にまとめられています。臨床実践が行われる特定の医療環境(政治的、社会的、経済的、文化的、科学的条件)に応じて、臨床スーパービジョンの方法論を設計する必要性が強調されています。


「ゲシュタルト療法におけるスーパービジョンの機能モデル」

  • 著者:Nifont B. Dolgopolov

  • この論文は、ロシアにおける心理療法の発展と、それに伴うスーパービジョンの必要性について論じています。学術心理学、カウンセリング心理学、そして心理療法の基本的な違いを明確にした上で、スーパーバイザーとスーパーバイジーの間の二者関係の重要性、スーパービジョンと心理療法の違いが述べられています。さまざまなスーパービジョンモデルと方法が明確に示され、Rita Resnickのスーパービジョン・ホイール(1999)がセラピストとスーパーバイザーの関係性を理解するための基本的な構造として用いられています。


「スーパービジョンを『状況』として捉える:セラピストの意図性の認識」

  • 著者:Margherita Spagnuolo Lobb

  • この論文は、ゲシュタルト療法の視点からスーパービジョンを「スーパーバイジーの意図性を美学的に認識すること」と定義しています。人間性中心の価値観に基づき、スーパービジョンは単なる指導機能としてではなく、治療関係においてすでにうまくいっていることをサポートするものとして捉えられています。また、心理療法における人間性中心的な転換がスーパービジョンにどのように適用されるかについての研究が不足していると指摘し、現象学的ブラケティング(判断を保留して純粋な体験に焦点を当てること)が、特定のスーパーバイザーとスーパーバイジーの間の「生きた関係性」に焦点を当てるための条件となるような、状況的アプローチを用いたゲシュタルト療法スーパービジョンの具体的な指針を提案しています。


「スーパービジョンにおける安全な場の構築:初心者セラピストとの協働」

  • 著者:Anna Malecka、Olga Tokarska-Bak

  • この論文は、初心者の心理療法士とのスーパービジョンにおいて、いかに安全な場を構築するかというテーマを探求しています。安全な場を創造することが、スーパービジョン関係を共に築き、スーパーバイジーの個性化のプロセスを支援し、心理療法士としての役割を確立する上で重要な役割を果たすという仮説を検証しています。また、ポーランドの初心者心理療法士56名を対象に実施した調査結果も紹介し、その知見と実践的な例が示されています。


アブストラクトを読んでいるだけでも、ゲシュタルト療法のスーパービジョンというものは、単に技法を教えたり、セラピストの専門性を向上させることではなく、人間としての成長と深まりを重視する、多面的で豊かな実践であることが伝わってきます。


日本ゲシュタルト療法学会では、『Gestalt Review』を機関購読していますので、会員の皆様はバックナンバーから最新号まで、数多くの論文を読むことができます。


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久松睦典

 
 
 

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