ゲシュタルト療法のスーパービジョン:4つの原則
- 事務局 JAGT
- 2 日前
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ゲシュタルト療法のスーパービジョンは、その基本的な考え方である「現象学」(体験をそのまま受け止める)、「実存主義」(いま、ここに生きることを大切にする)、「関係論」(人とのつながりを重視する)といった視点が色濃く反映されています。一般的なスーパービジョンの目的を超えて、セラピストが「いま、ここ」で何を感じ、どのように体験しているかに気づき、クライアントとの関係の中で起こる心の動きを理解し、自分らしい解決策を見つける力を高めることを大切にしています。今日は、ゲシュタルト療法的なスーパービジョンの4つの原則を、Gestalr Review誌の最新号を参考にしながら、少し書いてみます。
「いま、ここ」での体験と「気づき(Awareness)」
まず、ゲシュタルト・スーパービジョンでは、通常のゲシュタルト療法と同じく、「いま、ここ」での体験と「気づき(Awareness)」が非常に重視されます。スーパービジョンの時間そのものが、スーパーバイジーが自身の感情、体の感覚、そしてその瞬間に起こっていることに気づくための「いま、ここ」の場として機能します。
Ruella Frank(2025)が提唱する「ソマティック・スーパービジョン」は、この気づきの重要性をさらに強調しています。彼女は、スーパーバイジーが自分自身やクライアントの、その時々の身振りや姿勢、それに伴う身体感覚に意識を向けることを促します。これによって、言葉の内容だけでなく、その背景にある心の動きやプロセスを、身体の視点から理解し、状況を判断する手助けとなるのです。体の感覚に気づくことは、スーパーバイジーが自分の行動の裏にある理由や、クライアントとの関係で何が起きているのかを深く理解するための大切な手がかりになります。
「関係性(Relationship)」と「対話」
「関係性(Relationship)」と「対話」は、ゲシュタルト・スーパービジョンの最も大切な要素の一つです。Joseph Melnick(2025)は、スーパーバイザーとスーパーバイジーの間の信頼関係が、スーパービジョンの成功に不可欠であると述べています。この関係は、単に指導する・されるという一方的なものではなく、お互いに探求し、学び合う双方向のプロセスだと考えられています。
Anna MaleckaとOlga Tokarska-Bak(2025)は、特に経験の浅いセラピストにとって「安心できる場所」を作ることの重要性を強調しており、これがスーパーバイジーが自分らしさを発見し、セラピストとしての自信を築く上で、決定的な役割を果たすと指摘しています。ゲシュタルト・スーパービジョンでは、セラピーの現場で起こる「パラレルプロセス」(クライアントとセラピストの関係で起きることが、スーパーバイジーとスーパーバイザーの関係にも現れる現象)や「逆転移」(セラピストがクライアントに対して抱く感情が、過去の経験などから影響を受けること)といった現象が、貴重な学びの機会として捉えられます。
Nancy Amendt-Lyon(2025)は、スーパービジョンで「パラレルプロセス」や「役割を入れ替えてみる(リバースドロール)」といった考え方を取り入れることの有効性について論じています。スーパーバイジーがクライアントとの間で経験していることが、スーパーバイザーとの関係性の中にも現れるのを見て、それについて話し合うことで、スーパーバイジーは自分のセラピーの中でまだ解決していない部分に気づき、それを探求する機会を得るのです。
Melnick(2025)やMichael Kramer(2025)も、逆転移がゲシュタルト療法のアプローチにおいていかに重要であるかを強調しており、セラピストが自分自身を理解し、成長するための大切な情報源として見なされています。
「場の理論」と全体を見る視点
また、ゲシュタルト・スーパービジョンは、全体を見る視点と「場の理論」を特徴としています。スーパーバイジーの考え、感情、体、行動といった全てを丸ごと捉えることに加え、クライアント、スーパーバイジー、スーパーバイザー、そしてそれらを取り巻く環境全体をひっくるめた「フィールド(場)」という考え方を大切にします。Amendt-Lyon(2025)やMargherita Spagnuolo Lobb(2025)は、このフィールド論がスーパービジョンの状況全体を理解するための枠組みとなることを示しています。
特に、Spagnuolo Lobb(2025)は、スーパービジョンを、スーパーバイジーが持っている「意図(こうしたいという気持ち)」を、感覚的に捉える「状況」として捉えています。そして、「現象学的判断停止」(自分の判断を一時的に脇に置いて、純粋な体験に焦点を当てること)が、特定のスーパーバイザーとスーパーバイジー(そしてセラピストとクライアント)の間の「いま、ここ」での生きた関係性に目を向けるための条件となるような、状況的アプローチを用いたゲシュタルト療法スーパービジョンの具体的な指針を提案しています。
Diego G. Brandolín(2025)は、セラピーが行われる医療の状況(政治、社会、経済、文化、科学といった条件)に合わせて、スーパービジョンのやり方を考える必要があると強調しており、これはフィールド論を具体的に応用した例と言えるでしょう。
「実験(Experiment)」と「創造的な調整」
最後に、ゲシュタルト・スーパービジョンは、「実験(Experiment)」と「創造的な調整」を積極的に進めます。スーパーバイジーがスーパービジョンの場で新しい行動やアプローチを試す機会を積極的に提供することで、これまでのやり方から一歩踏み出し、新しい可能性を探求することを促します。
Amendt-Lyon(2025)は、セラピストやスーパーバイザーとして自分自身のスタイルを開発し、新しいことを試す気持ちを持つことが、充実した実践を続けるためのさらなる指針となると述べています。これは、一人ひとりのスーパーバイジーの個性や成長段階に合わせた、柔軟で創造的なアプローチを重視することにつながるのです。
ゲシュタルト療法のスーパービジョンは、これらの要素を通じて、セラピストが自己理解を深め、クライアントとの関係性をより豊かにし、専門家としての成長を促進することを目的としています。
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